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NFLは2020年9月10日(日本時間9月11日)、101回目のシーズン開幕を迎えました。初戦となるHouston Texans at Kansas City Chiefsのテレビ中継は2017年に殿堂入りしたラデイニアン・トムリンソンが殿堂入りの記念式典で行ったスピーチの抜粋から始まりました。
Football is a microcosm of America.
All races, religions and creeds living, playing side by side.
When we open the door for others to compete, we fulfill the promise of one nation.
Let’s open it wide for those who believe in themselves, that anything is possible.
I am asking you to believe in your ability to bring about change.
We represent the game, our team, our community.
We all have to try harder.
My great‑great‑great‑grandfather had no choice.
We have one.
I pray we dedicate ourselves to be the best team we can be, working and living together.
聞き取りなので間違ってるかもしれません。抜粋というよりパッチワークと言った方が良いかもしれません。高校の英語で赤点を取った私による拙訳はざっとこんな感じです。
アメリカンフットボールはアメリカ社会の縮図です。
そこではあらゆる人種、信条、信念を持つ者達が共に生き、学んでいます。
私たちは他者が競えるよう扉を開くことで、共同体としての約束を果たすのです。
どんなことでも実現できると信じる人々のために扉を大きく開きましょう。
信じてください、あなたには変革をもたらす力があります。
私たちは物事のなりたちであり、組織を形成する者であり、社会そのものなのです。
私たちは今までより一層励まなければなりません。
私の先祖には選択肢などありませんでした。
私たちにはあるのです。
私たちが、共に働き、共に生きられる最高のチームとなるべく各々が尽くすよう望みます。
playに学ぶという意味はないでしょうし、gameはゲームだと思いますが、一般化するべく内容を改変してしまうレベルで意訳しました。
ラデイニアン・トムリンソンは黒人です。そしてトムリンソンという名前は、彼の先祖が奴隷として仕えていた農場主の苗字でした。実は、殿堂入りのスピーチでは「Football is a microcosm of America」という一文は以下のような文脈で語られました。
Football is a microcosm of America.
All races, religions and creeds living, playing, competing side by side.
When you are a part of a team, you understand your teammates, their strengths and weaknesses, and work together toward the same goal, to win a championship.
In this context, I advocate we become Team America.
またしても高校の英語で1度ならず赤点を取った私による拙訳はざっとこんな感じです。
アメリカンフットボールはアメリカ社会の縮図です。
そこではあらゆる人種、信条、信念を持つ者達が共に生き、学び、お互いを高めあっています。
チームの一員であるのなら、仲間を理解しなければなりません、彼らの強さ、そして弱さを。そして同じ目標のために一丸となって取り組むのです。勝者となるために。
その意味において、私たちが1つのチームアメリカとなることを提唱します。
トムリンソンは記念スピーチでフットボールへの思いや自らの半生、お世話になった人々への感謝だけでなくフットボールになぞらえて国というチームがチャンピオンシップを制するにはどうすれば良いのかをスピーチで説きました。2017年は新大統領の誕生後、彼の地では国民の分断や差別がそれまでより強く意識された年でしたが、今となっては当時より遍く人々に伝えたいメッセージとなっているかもしれません。しかし一方でトムリンソンのスピーチで語られたcompeting(競う)という言葉が削除されています。きっと人々の意識が先鋭化している今この時に表現者は薄氷を踏むような思いで文を物していることでしょう。
因みに「We all have to try harder」というのはトムリンソンがオバマ大統領のスピーチから引用した言葉であり、引用の引用です。政治的意図を感じる人もいるかもしれません。放送を制作したNBCがどちらの政党を支持しているのか私は知りません。
NFL(アメリカンフットボール)は他のメジャースポーツとは比較にならないほどの大所帯で運営されています。今シーズンは各チームのアクティブロスター(選手登録)は去年までの53人から2人増えて55人になりました。育成枠の選手登録もコロナ禍の影響を鑑みて10名から16名に増えました。そしてオフェンスやディフェンスやスペシャルチームの各ポジションごとにコーチやアシスタントがいて、対戦相手のプレー傾向を分析するクオリティコントロールコーチなどという人もいます。シーズン中のみ週給で雇われているようなパートタイマーも多くいます。
NBA(バスケットボール)では「バブル」という隔離作戦により選手やコーチが新型コロナウィルスに感染しないよう対策しましたが、NFLは上記のように比較にならないほどの大人数の関係者がいながら、特にバブルすることもなくシーズン開幕へ向けてトレーニングキャンプ等を行ってきました。その結果として、8月12日から9月5日までに延べ64058人の選手にPCR検査を実施し、陽性は5人でした。先行するNBAやMLBが夜の街でクラスター感染して試合中止に追い込まれているのをしっかり見ていた結果でしょうか。
HOUSTON TEXANS at KANSAS CITY CHIEFS
とにもかくにもNFLは予定通り開幕しました。当初は無観客試合となる筈でしたが、オープニングゲームが行われたアローヘッドスタジアムにはキャパシティの2割程度の観客を招いての開催となりました。例年であれば開幕前の4週間に亘って行われるプレシーズンゲームが全てキャンセルされましたがそんなのは些末なことです。
ところで8月8日にディオン・サンダース(90年代を代表する名選手で、同時期にMLBとNFLでプレー。MLBのワールドシリーズと、NFLのスーパーボウルに出場した唯一の選手。また、NFLでタッチダウンを上げたのと同じ週にMLBでホームランを打った唯一の選手。更に、スーパーボウルでパスキャッチとパスインターセプトを行った唯一の選手。そして、ラン、パスキャッチ、リターンなど6種類の異なる方法でタッチダウンを上げたことがあるたった2人のうちの1人。)がこんなツイートをしました。
All Players OPTING out in all sports PLEASE BELIEVE the game will go on without u.
This is a business & don’t u EVER forget that.
There’s NO ONE that’s bigger than the game itself.
Only the ref,umps & officials are that important that u can’t play without them.
NOT YOU!
高校2年生の時、英語の赤点を消すことでどうにかこうにか留年を免れた私の拙訳は以下の通りです。
たとえあらゆるスポーツで全ての選手がこのコロナ禍のために出場を辞退したとしても、どうか信じて欲しい、辞退した諸君など居なくてもゲームは中止になることなく続けられるだろう。
これがビジネスであることを絶対に忘れてはいけない。
選手がゲームそのものより重要である筈などないんだ。
ただし審判員は非常に重要だ。彼らが居なきゃゲームは成り立たないからね。
居なきゃいけないのは諸君じゃないんだよ!
NFLは観て楽しく、考えて難しく、感動と示唆に富んでいます。単なる見世物興行であり、且つ人生哲学でもあります。今年もまた有象無象が如く掃いて捨てるほどの数多天才達がひとところへ集い、作り上げるこの複雑で美しい芸術を鑑賞する喜びに胸が躍ります。